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Tue.07/03. 2007
胸に迫る「森」と「生」と「死」と…
今年のカンヌ国際映画祭でグランプリ(審査員特別大賞)に輝いた河瀬直美監督の受賞作である。最高賞のパルムドールに次ぐ賞だが、「萌の朱雀」のカメラドール(新人監督賞)から10年、これは一人の映画作家の成長を物語る一つの到達点といっていい。生と死という根源的なテーマに端正なカメラワーク。グランプリにふさわしい風格さえ漂わせる。
もともと自主製作のドキュメンタリー映画から出発した監督だけに、ここでも臨場感あふれるカメラが二人の人物を追う。介護施設で暮らす認知症の初老の男(うだしげき)と、そこで働く新任の介護士(尾野真千子)。33年前に亡くなった妻の墓参りで二人は森の中をさまよい、墓の前で一夜を明かす。
冒頭の風にそよぐ木々の群れと波打つ草原、そして茶畑。どこも新緑が目にまぶしい。生命がほとばしり出てくるようだ。
一転して、昼間でも暗いうっそうとした森。そこは生より死を連想させる。やっと探し出した妻の墓。そこを掘り返し、死者と対面する男。幼い子を亡くし自責の念にかられる介護士もまた、自分の死と対峙する。生者と死者の心の交流。そこに生から死へ、死から生へと連綿と続く人間の日々の営みの実相が見えてくる。
妻の墓の前で記憶をよみがえらせ過去へと戻る男と、その男の心の中へ入っていこうとする介護士の間に生まれる高揚した一体感。二人で手を取り合って踊ったり、雨に濡れた男の体を介護士が温めたり。現実と幻想、聖と性が交錯する濃密な時間の流れは、森の中にもうひとつの美しい詩的な空間を作り上げるのだ。それは生と死の融合か、あるいは死を取り込んだ生の賛歌か。
「殯」とは、「敬う人の死を惜しみ、しのぶ時間のこと。またその場所の意」と河瀬監督。「喪があけること」も意味する。33年間も喪に服してきた認知症の男が、ひとつの「殯」の儀式を経て生をつかみ、現実によみがえったのだ。その場所こそ、いにしえの奈良の都に近い緑濃い再生の森なのである。これは監督の実感に違いない。切々と胸に迫るものがある。1時間37分。
――東京・渋谷のシネマアンジェリカほかで公開中。
(映画評論家 土屋好生/読売ウイークリー2007年7月15日号より)
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